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向川尚樹 「10年ぶりのTOJ、それでもまだ走りたいねん。」
2025年5月30日
Photo: 福光俊介
チームとして初めて出場したツアー・オブ・ジャパン。
今回出場した6名の中で、過去に本大会を走った経験があるのは、ベンジャミ・プラデスと向川尚樹の2名だけでした。
残念ながら、向川は第3ステージでリタイア。レースを離れたあと、単独で東京まで自走しました。
今回出場した日本人選手の中で最年長、44歳のベテランが、その旅の途中で感じた思いを語ります。
■ レース序盤でのリタイア
Photo: 福光俊介
10年ぶりに、TOJに出させてもらえるチャンスをもらった。
気合は十分。ほんまに、この日のために準備してきたつもりやった。
けど、第3ステージ「いなべ」でタイムアウト。悔しかった。
これまで何度もTOJに出てきたけど、途中でリタイアしたのって…たぶん初めてやと思う。
結果が出せんかったこともやけど、何よりチームやチームメイトに申し訳ない気持ちでいっぱいで。
走れへんかった分、みんなに余計な負担かけてしもたなって。
正直、すぐ帰ってリセットしてもう一回気持ち立て直す…って選択もあったと思う。
でも、それって自分の中では「逃げ」に思えた。
やっぱり、止まったところからもう一回走り出すしかないなって思って。
悔しいまま終わりたくなかった。
■ 走りながら考えてたこと
Photo: Kensaku Sakai
東京まで走ったログデータ
まずはリタイアした当日の「いなべ〜美濃」80km。
タイムアウトまでに70kmは走ってたから、この日は合計150km。
次の日は「美濃〜飯田」151km。
その次、「飯田〜富士」227km。…途中で蜂に刺されるっていうオマケ付き(笑)
「富士〜相模原」148kmは、チームのメンバーが富士山五合目まで登るって言うから、自分も富士宮口ルートで登った。
ラストは「相模原〜東京」172km。奥多摩まわって、ちょっと遠回りして東京へ。
走りながら、ずっと頭の中でぐるぐる考えてた。
──「あそこでああしてたら、タイムアウト逃れられたんちゃうか?」
──「TOJまでの調整、間違ってたかもな」
──「そろそろ選手としての限界なんかもしれん…」
ネガティブなことばっかり思い浮かぶけど、それでも体は勝手に走ってた。
「負けたくない」って気持ちだけで、前に進んでた気がする。
■ 10年前と今と
ホテルに戻って、ふと10年前のTOJのリザルトを見てみた。
2015年、マトリックスパワータグ所属時代に出た堺タイムトライアル(2.65km)。
当時の優勝タイムは3分19秒。チームメイトだったマンセボが3分25秒、ホセ3分29秒、ベンジャ3分29秒。
日本人で一番速かった選手が3分22秒、自分は3分37秒。
今年の堺タイムトライアル(2.6km)で比較すると、優勝タイムが2分58秒。
今年も出場したマンセボが3分16秒、ホセが3分17秒、そしてベンジャが3分4秒。
自分は3分29秒。
機材の違いはあるけど、10年前もカーボンフレームのノーマルバイクやったし、そこまでの差ではない。
「いなべ」は今年の方が10分以上速くなっていて、レース全体がもうめちゃくちゃ速くなってる。
■ まだ終わりたくない
Photo: Kensaku Sakai
10年前に圧倒的に強かったマンセボ、ホセは今もちゃんと強い。
去年、大阪の峠で一緒に練習したときも、マンセボはベストに近いタイムを出してた。
自分も、スプリントの数値は落ちてきたけど、有酸素の部分は伸びてる。
ベンジャは自分と同い年やけど、ちゃんと今のレーススピードに対応してて、ほんまに尊敬してる。
それに、日本の若い選手たちも強くなってきてて、どんどん世界に近づいてきてる。
見ててワクワクするし、応援したくなる。
正直、周りから見たら「もうええ歳やし、引き際ちゃう?」って思われてもおかしくない。
「悪あがき」「自己満足」って言われても仕方ないんかもしれん。
でもな、自分で“まだ伸びてる”って思えるうちは、まだ走りたいねん。
若い選手たちは可能性の塊や。どんどん強くなっていってほしいし、もっともっと前に出てってほしい。
そして自分も、もう一回、ちゃんと挑戦したい。
もう一度、あの舞台で勝負したい。
そんな気持ちで、またペダル踏み始めてる。